共働き夫婦にとって、「いつ子どもを持つか」は、ライフプランのみならずキャリアプランにも大きく関わる重要な決断です。
しかしながら、ライフスタイルの変化などにより、子どもを望んでもなかなか授かれない夫婦が増えていて、妊活をしている夫婦も増加傾向にあります。
金銭的な負担も大きい妊活を支えるために、国や地方自治体ではさまざまな支援制度を設けています。
「子どもを持ちたい」と思った共働き夫婦にぜひ知ってほしい、妊活で使える支援制度と申請方法を紹介します。
共働き夫婦が妊活で使える国・地方自治体の支援制度と申請方法の要約
- 不妊治療には保険が適用されるものと適用外のものがある
- 高額療養費制度や所得税の控除など、国の制度でも支援が受けられる
- 国が資金を提供し、地方自治体が実施する不妊に悩む方への特定治療支援事業がある
共働き夫婦が知っておきたい妊活の基礎知識
妊活とは、「子どもを持ちたい」と考えるところから始まり、妊娠についての知識を深めたり、夫婦で話し合ったりなどの子どもを授かるための活動全般を指します。
その中でも、現在注目を集めているのが不妊治療です。
晩婚化が進んだ現代では、不妊症に悩み、不妊治療を行っている共働き夫婦が少なくありません。
まずは、不妊症の判断基準や不妊治療の概要など、共働き夫婦が知っておきたい妊活の基礎知識を紹介します。
不妊症の判断基準
不妊とは、妊娠を望む男女が避妊をせずに性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないことを指し、この状態にあることを不妊症と呼びます。
この「一定期間」は、日本産科婦人科学会では「1年というのが一般的である」と定義されています。
ただし、女性が子宮内膜症や骨盤腹膜炎などにかかったことがある場合には、1年を待たずに治療を開始した方が効果的な場合もあります。
特に、共働き夫婦の場合には、忙しくて夫婦で話し合う時間が取れず、受診が遅れてしまうケースも少なくありません。
治療を開始するのが早いほど不妊の原因を解消できる可能性が高いことから、「不妊症もしれない」と感じた段階で夫婦で話し合うことをおすすめします。
不妊症の検査
不妊治療を開始するためには、まず「不妊症の原因がどこにあるのか」を探るための検査を産婦人科などの医療機関で行います。
初診時には問診を行うため、夫婦の病歴を確認しておくことをおすすめします。特に、男性はおたふくかぜ、女性は風疹にかかったことがないか確認が必要です。
問診が終了したら、2回から3回に分けて検査を行います。
女性の検査
女性が行う不妊検査は、病気がないかを確認する超音波検査や、ホルモンバランスに異常がないかを確認する検査が一般的です。
ホルモンの検査では、排卵の時期によって確認するホルモンが異なるため、検査時には基礎体温表を持参することをおすすめします。
男性の検査
男性が行う不妊検査では、採取した精液を検査し、精子の数や運動量、奇形率などを調べます。
検査は産婦人科のほか、泌尿器科でも行えます。
不妊治療のステージと料金の目安
検査と並行して、不妊治療が始まります。不妊治療は、タイミング法などの一般不妊治療と、体外受精などの特定不妊治療の2つのステージに分かれます。
出典:一般的な不妊治療と費用の目安|不妊のこと|妊娠・出産の正しい知識|丘の上のお医者さん 女性と男性のクリニック(神奈川県運営サイト)
一般不妊治療
一般不妊治療は、排卵と受精を補助する治療のことで、以下の3つの治療を段階的に行います。
- タイミング法:最も妊娠しやすい時期(排卵の2日前)に性交を行う方法
- 排卵誘発法:内服薬や注射で卵巣を刺激して排卵を促す方法
- 人工授精:採取した精液から良好な精子を取り出し、最も妊娠しやすい時期に子宮に注入する方法
一般不妊治療の料金の目安
一般不妊治療の中でも、タイミング法は治療の初期に行われることもあり、保険が適用されます。自己負担は1回あたり数千円です。
一方、人工授精は保険適用外で、1回あたり1万円から2万円が一般的な料金です。体外受精に比べて経済的・身体的負担が少ないため、複数回行うのが一般的です。
排卵誘発法で使用する注射や薬は、タイミング法の間は保険が適用されますが、人工授精の治療中は保険が適用されません。また、保険が適用されない注射もあります。
保険が適用される場合は1カ月あたり数百円の自己負担で利用できますが、適用外の場合は1カ月あたり数百円から数千円と、使用する薬によって様々です。
特定不妊治療
一般不妊治療でも妊娠できなかった場合、女性の体外で受精を行う段階へ移行します。この段階の治療を特定不妊治療と呼び、以下のような治療を行います。
- 体外受精:女性から採取した卵子を入れた培養液に精子を加え、受精が確認できてから子宮内に戻す方法
- 顕微授精:体外受精のうち、細いガラス管に入れた精子を顕微鏡で確認しながら卵子に直接注入して受精させる方法
特定不妊治療の料金の目安
特定不妊治療は保険の適用外で、体外受精1回あたり20万円から60万円の費用がかかります。
高額な治療ですが、都道府県から助成が受けられます。
共働き夫婦が妊活で使える国の支援制度
高額な費用がかかることが多い妊活では、健康保険や所得税の控除など、国の制度でも支援が受けられます。
保険が適用される不妊治療
妊活の中でも、以下のような初期の一般不妊治療には保険が適用されます。
- 検査(ホルモン検査や精液検査など)
- タイミング法
- 排卵誘発注射
- 子宮卵管造影法
また、保険が適用される一般不妊治療の自己負担額が限度額を超えると超えた額が返還される「高額療養費制度」も、条件を満たせば利用可能です。
1世帯で1カ月(1日から月末まで)に支払った保険適用の医療費が上限を超えた場合、超えた額が支給される制度です。
不妊治療のうち、人工授精や体外受精などの保険適用外の医療費は対象外です。
詳細は厚生労働省のサイトをご確認ください。
確定申告による所得税の控除
1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合、確定申告をすれば、所得税の控除が受けられます。
働いている人が納める税金の1つである所得税は、1年間の所得(課税所得)をもとに納付額を決定し、所得が多ければ多いほど納税額も高くなります。
この課税所得から、1年間に支払った医療費を引くことができるのが所得税の控除で、結果的に所得税が減額されます。
会社勤めをしている人の場合、給料から天引きされている所得税の一部が還付金として戻ってきます。
さらに、翌年1年間に納める住民税も減額されます。
会社勤めの場合、確定申告を行う必要がない人も多いですが、妊活で医療費の負担が大きかった年には確定申告をすることをおすすめします。
対象者
所得税の控除を受けられるのは、1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費が10万円(総所得が200万円未満の場合は総所得の5%)を超えた人です。
共働きの夫婦の場合、妻の医療費だけでなく、夫や子どもの医療費も合算できます。
ただし、保険金などによる補填がある場合には、補填額を差し引いた額が10万円を超える必要があります。
保険金などによる補填には、医療保険の給付金だけでなく、高額療養費制度による払い戻しや、不妊治療に対する助成金も含まれます。
1年間にかかった医療費から10万円を引き、さらにこの補填額を差し引いた額を「医療費控除額」と呼びます。
控除の対象となる医療費は以下のような治療で、一般不妊治療だけでなく、特定不妊治療にかかった金額も対象となります。
- 病院で医師に支払った診療費や治療費
- 通院のための交通費(公共交通機関)
- 治療に必要な医薬品の購入費
- 不妊治療費
- 妊娠してからの検査費や分娩にかかった費用
一方、以下のような病気の治療の範囲外とみなされるものは、控除の対象にはなりません。
- 治療に直接関係のないマッサージなどの費用
- 美容目的の外科手術の費用
- 健康増進目的のサプリメント類の購入費
- 車で通勤した場合のガソリン代
手続きの方法
所得税の控除を受けるには、医療費が一定額を超えた翌年の1月1日から5年以内に、地域の税務署に申請をする必要があります。
一般の確定申告は2月中旬から3月中旬に行いますが、還付金の申請の場合はこの期限内に行わなくても問題ありません。
申請に必要な書類は、以下の5点です。
- 医療費の支払いを証明する書類(レシートや領収証など)
- 源泉徴収票
- 医療費控除の明細書
- 確定申告書A
- マイナンバーが記載されている本人確認書類のコピー
医療費控除の明細書と確定申告書Aは、税務署で受け取れるほか、国税庁のホームページからもダウンロードできます。
レシートや領収証は医療費控除の明細書の作成に必要であり、提出の必要はありませんが、税務署から提出を求められる場合があるので5年間は保存しておきましょう。
もらえる金額
所得税の控除を受けることで戻ってくる還付金は、「医療費控除額×所得税率」で求められます。
所得税率は、源泉徴収票に記載されている「給与所得控除後の金額」から「給与控除の合計」を引き、さらに医療費控除額を引いた金額によって異なります。
計算後の金額 | 所得税率 |
195万円以下 | 5% |
195万円超~330万円 | 10% |
330万円超~695万円 | 20% |
695万円超~900万円 | 23% |
900万円超~1,800万円 | 33% |
1,800万円超~4,000万円 | 40% |
4,000万円超 | 45% |
たとえば、「給与所得控除後の金額」から「給与控除の合計」を引いた額が400万円、医療費の合計が60万円で、助成金で15万円受け取った人の場合、
(60万円-10万円-15万円)×20%=7万円が手元に戻ってきます。
給料が高ければ高いほど還付金の額が上がるので、夫か妻のうち給料が高い人が申請することをおすすめします。
共働き夫婦が妊活で使える地方自治体の支援制度と申請方法
妊活に対する支援制度は、国が事業主体となって行うものだけでなく、都道府県や市区町村などの地方自治体が実施するものもあります。
特に、市区町村が行う支援制度は独自のものが多いため、自分の住んでいる地域の支援制度を確認することをおすすめします。
不妊に悩む方への特定治療支援事業
不妊に悩む方への特定治療支援事業は、国が資金を提供し都道府県や指定都市、中核市が実施する妊活の支援事業です。
保険が適用されない特定不妊治療(体外受精と顕微授精)の費用の一部を助成してもらえます。
特定不妊治療を行うために、精巣内精子生検採取法などの男性不妊治療もあわせて行った場合には、手術代と精子凍結料も助成の対象になります。
対象者
助成を受けるためには、以下の4つの条件を全て満たす必要があります。
- 法律上の婚姻をしている夫婦であること
- 特定不妊治療以外では妊娠の見込みがない、または極めて少ないと医師に診断されていること
- 治療開始時の妻の年齢が43歳未満であること
- 夫婦合算の年収が730万円以下であること
ただし、自治体によっては所得制限を緩和するなど、異なる条件を設けていることもあるので、自分の住んでいる自治体の条件を確認することをおすすめします。
また、助成を受けるには自治体が指定した医療機関で治療を受ける必要があります。指定医療機関の一覧は、厚生労働省のホームページで確認できます。
不妊に悩む方への特定治療支援事業 指定医療機関一覧
申請方法
申請の際には、実施主体である自治体に書類を提出します。必要な書類は自治体によって異なりますが、東京都の場合、以下の8点を福祉保健局に郵送する必要があります。
- 特定不妊治療費助成申請書
- 特定不妊治療費助成事業受診等証明書
- 住民票の写し(原本、マイナンバーの記載がないもの)
- 戸籍謄本(原本)
- 夫婦両方の所得関係書類(住民税課税(非課税)証明書または住民税額決定通知書、コピー可)
- 領収書のコピー
- 精巣内精子生検採取法等受診等証明書(原本、夫が助成対象となる場合のみ)
- 男性不妊治療の領収書のコピー(夫が助成対象となる場合のみ)
助成は不妊治療1回ごとに行われるため、治療が1回終了するごとに申請が必要です。
自治体によっては申請期限があるため、忘れずに確認しましょう。東京都の場合、郵送期限は1回の治療が終了した日の年度末です。
もらえる金額
助成の金額は、女性・男性ともに治療1回につき15万円までが基本です。初めての治療の場合は30万円、採卵をしたものの治療を中止した場合は7.5万円が上限です。
ただし、自治体によっては上限額を増額していることもあるので、自分の住んでいる自治体の助成額を確認することをおすすめします。
たとえば、東京都の場合、治療の内容によって上限額を20万円や25万円まで引き上げています。
助成を受けられる回数には限度があり、特定不妊治療を初めて受けたときの妻の年齢が40歳未満なら通算6回、41歳以上43歳未満なら通算3回までです。
しかし、自治体によっては上限を超えても独自に支援を行っていることもあるため、自治体のホームページなどで確認することをおすすめします。
一般不妊治療に対する助成金
一般不妊治療に対しても、都道府県や市区町村が独自に助成金を設けています。自治体によっては、検査費や不育症治療費などにも助成を行っている場合があります。
自治体によって対象者や対象となる治療、助成金の額などが異なるため、自分の住んでいる自治体の制度を確認することをおすすめします。
実際の助成金の例 静岡県静岡市
静岡県静岡市では、人工授精にかかる治療費の7割、6万3千円を上限に助成しています。
対象となるのは、夫婦の両方またはいずれかが静岡市に住民登録がある戸籍上の夫婦で、治療開始時点で妻の年齢が40歳未満である必要があります。
申請時には、以下の書類をまとめて各区役所の窓口に提出します。
- 一般不妊治療費補助金交付申請書
- 一般不妊治療費受診等証明書
- 請求書
- 戸籍謄本(原本)
- 夫婦の医療保険証のコピー
また、提出時には申請書に押印した印鑑と、振込先口座が分かる通帳などの持参も必要です。
自治体独自の支援制度
これまで紹介した助成金以外にも、各自治体が独自に行っている妊活の支援制度もあります。共働き夫婦の妊活を応援するユニークな支援制度を紹介します。
不妊治療休暇を設けた企業に奨励金 三重県津市
不妊治療はお金だけでなく時間もかかるため、共働き夫婦は仕事を休まなければならないことも多く、仕事と治療の両立は大きな問題です。
そんな悩みを抱える共働き夫婦が治療に集中できるよう、三重県津市では不妊治療休暇を導入した中小企業に奨励金を出しています。
不妊・不育の専門相談窓口を開設 神奈川県横須賀市
不妊症や不育症の治療中は、思い悩むことや不安に思うことが多いものの、話せる相手がほとんどいないことも少なくありません。
不安を抱える夫婦のために、神奈川県横須賀市では不妊・不育の専門相談窓口を設置し、電話やメールなどで相談を受け付けています。
共働き夫婦こそ2人で支え合って妊活に取り組もう
お金だけでなく時間もかかる不妊治療は、共働き夫婦にとって精神的な負担が大きいものです。
妊活にかかる時間を確保するために、これまで勤めてきた会社を辞めるという「妊活退職」の道を選ぶ共働き夫婦も少なくありません。
苦難を乗り越えるためには、夫婦で支え合い、気持ちを一つにして妊活に取り組むことが重要です。
夫婦で支え合う妊活のためにも、国や自治体の支援制度を上手に活用してください。